普遍性と可変性が共存する、これからのセットアップオフィス ―BIZCORE飯田橋

普遍性と可変性が共存する、これからのセットアップオフィス ―BIZCORE飯田橋

2025年8月、東京・飯田橋に新たな中規模グレードオフィスビル「BIZCORE飯田橋」が竣工しました。その7階にオープンしたセットアップオフィスは、これまでの「家具付きオフィス」という枠組みを超え、これからの働き方を問い直すような空間に仕上がっています。

今回、このフロアの設計からインテリアデザイン、そして家具の選定に至るまでをトータルで手がけたのはインターオフィスです。特筆すべきは、空間の骨格をつくる「造作家具」、空間に統一感を与える「既製品家具」、そして状況に応じて柔軟に入れ替えが可能な「サブスクリプション家具(fittingbox)」を組み合わせたハイブリッドな構成を採用している点です。

BIZCOREシリーズが新たに掲げるブランドコンセプト「きもちいいほど、はかどる」。その言葉を体現するように、「風通しのよさ」と「用途のしなやかさ」をテーマにしたこの空間は、どのような想いでつくられたのでしょうか。

今回は、日鉄興和不動産株式会社よりBIZCOREシリーズの開発推進を担当する池田氏、リーシングを担当する谷川氏、そして設計を担当したインターオフィスのデザイナー・桒田に、プロジェクトの背景とそこに込めた意図を詳しくお話しいただきました。

 

写真左から 谷川氏、池田氏、桒田

 

「働く一人ひとり」のための空間へ ── BIZCOREの進化

まず、BIZCOREシリーズそのものの成り立ちと変遷について、開発推進部の池田氏にお話を伺いました。

日鉄興和不動産が2017年から展開している「BIZCORE」は、中規模グレードオフィスビルというカテゴリーに位置します。開発の原点には、東日本大震災以降、急速に高まったBCP(事業継続計画)への需要がありました。

池田氏「大企業が入居するような大型オフィスビルではBCP対策が進んでいる一方で、中規模ビルになるとそうした対策が十分ではないケースが以前は多く見られました。これから成長していく企業を支える器として、しっかりとしたハード面での安心を提供したい。それがBIZCOREブランドのスタートでした」

 

 

大型ビル並みの耐震性、非常用大型発電機の設置、そして防災備蓄品の完備。特に備蓄品については、ビル側で随時メンテナンスや交換を行うことで、入居企業の総務担当者の手間を省く仕組みまで整えられています。

池田氏「BCPにおいては、『備えること』と同じくらい『管理すること』が重要です。いざという時に使えなければ意味がありませんから、運用面でのサポートも重視しています」

そうした「安心・安全」という強固な土台の上に、2024年、新たなコンセプトが積み上げられました。それが「きもちいいほど、はかどる」です。

池田氏「これまでのビル開発は、契約の主体となる経営層の方や総務部の方を念頭に置くことが多かったのです。しかし今は、実際にそこで時間を過ごす『働く一人ひとり』に焦点を当てる発想へと大きくシフトしています」

 

 

スタイリッシュなファサードや上質で温かみのあるエントランス、緑化された屋上空間など、ワーカーが心地よく働ける環境づくり。その思想は、今回取材した7階のセットアップオフィスにも色濃く反映されています。

 

急速に定着するセットアップオフィスと、高まるデザインへの期待

 

今回対象となったのは、150坪という広さを誇るフロアです。会議室やカフェコーナーに加え、50名規模の執務スペースがあらかじめ備えられた状態で募集が開始されました。

リーシングを担当する谷川氏は、近年のオフィス市場における「セットアップオフィス」の需要拡大について、次のように語ります。

谷川氏「2019年頃から、セットアップオフィスという形態はお客様の間に一気に定着しました。背景には、『レイアウトを考えるのが大変』『工事費が高騰しすぎて自前で内装を作るのが難しい』といった切実な環境の変化があります」

当初は6〜8人程度のスタートアップ向け小規模区画が中心でしたが、近年ではその規模が50坪、100坪とどんどん大きくなる傾向にあります。それに伴い、求められる「質」も変化してきました。

谷川氏「初期のセットアップオフィスはシンプルなデザインが主流でしたが、ここ2年ほどで潮目が変わりました。お客様の目が肥えてきており、家具やインテリアに対する感度が非常に高くなっています。単に机と椅子があるだけではなく、デザイン性の高いセットアップが求められるようになっています」

 

 

しかし、ここで一つの課題が浮上します。150坪という規模で、まだ見ぬ入居者のために空間を作り込む難しさです。「誰が入るかわからない」状態で、特定の企業色に染まりすぎず、かつデザイン的にも満足度の高い空間を作らなければなりません。

谷川氏「スタートアップだけでなく、大手企業の新規プロジェクトチームが入るかもしれない。幅広いお客様に支持される機能とデザインでなくてはならない。その『普遍性』と『可変性』のバランスが、今回の大きなテーマでした」

 

普遍性と心地よさのバランス ── デザイナーの視点

この難題に対し、インターオフィスは「普遍性×心地よさ×長く使われるデザイン」をコンセプトに掲げました。

桒田「トレンドを追うだけのデザインではなく、誰が見ても心地よく、長く使われ続ける普遍的なデザインを軸にまとめました。ポストコロナの働き方を踏まえると、オフィスにも『住宅の延長のような柔らかさ』が求められています」

 

 

在宅ワークが一般化した今、オフィスは単に作業をする場所ではなく、コミュニケーションや居心地の良さを提供する場としての役割が強まっています。

桒田「素材や照明など、『時代が変わっても心地よく感じられる要素』を丁寧に選びました。過度に個性的な色や形は避けつつも、多様な企業が入居できる『懐の深さ』と『現代らしさ』のバランスを重視しています」

 

 

造作家具で空間のしっかりとした骨格を作り、既製品家具で機能と統一感を持たせる。そして、そこに「動き」と「余白」を生み出す要素として取り入れられたのが、fittingboxによるサブスクリプション家具でした。

桒田「すべてを固定するのではなく、動かせる要素を入れることで、『使いながら完成していく空間』を目指しました」

 

「可変性」がリスクを回避する ── fittingboxの役割

 

なぜ、セットアップオフィスにサブスクリプション家具(fittingbox)が必要だったのでしょうか。谷川氏は、セットアップオフィスが抱える構造的なリスクについて言及しました。

谷川氏「どんなに機能やデザインを詰め込んでも、入居される企業様のニーズと完全に合致するレイアウトを作ることは不可能です。例えば、想定は50名でも『60名で入居したい』という場合もありますし、『もっと気軽にワークショップができるスペースが欲しい』という要望が出ることもあります」

もし、すべての家具が固定された造作や購入品であった場合、こうした要望に応えるためには既存の家具を廃棄したり、大掛かりな工事が必要になったりします。作り込んだセットアップオフィスが、かえって入居の妨げになってしまうリスクがあるのです。

谷川氏「オフィスの可変性は絶対に必要です。今回は、変化が起きやすいエリアの家具をサブスクリプションにすることで、そのリスクを回避しています」

具体的には、窓際のカジュアルエリアや執務スペースなどにfittingboxを採用し、可動性を持たせました。カジュアルエリアのソファにはVitra(ヴィトラ)「Soft Work(ソフト ワーク)」を導入しており、一人での集中作業からチームでのカジュアルな打ち合わせまで、さまざまなワークスタイルに柔軟に対応できることが特徴です。執務スペースの椅子には、デザイン性と多様な利用シーンになじむHerman Miller (ハーマンミラー)「Sayl Chair(セイル チェア)」を導入しました。

 

 

こうした高品質な家具を柔軟に入れ替えられる仕組みにより、心地よさは保ちつつ、人数の増減や用途の変更にしなやかに対応できる空間が構築されています。

谷川氏「可変性をサブスクで担保することで、フルセットアップの利便性を向上させつつ、将来的な変更の余地を残すことができました。これは、入居後の運用負担を軽減することにもつながります」

 

空間は「完成」させずに「育てる」ものへ

 

この「完成させすぎない」余白のある空間づくりは、実際のリーシング現場でも効果を発揮しています。

谷川氏「お客様の反応は非常に良いですね。7階を見学されると、コンセプトへの理解も早いです。他のフロアを検討されているお客様からも、『この7階と同じテイストのセットアップを作れますか?』という声をいただくほどで、モデルルームとしての効果も高いと感じています」

fittingboxを導入したことで、初期コストを抑えながらデザイン性の高い家具を導入できただけでなく、「入居企業の色に染めていける」という可変性が、大きな価値として評価されているようです。

今後のセットアップオフィス市場について、谷川氏は「読みづらい状況だからこそ、挑戦が必要だ」と語ります。

谷川氏「不動産開発は、一度作ってしまうと変更が難しいため、トライ&エラーがしにくい業界です。しかし、それでもやってみないと市場の変化はつかめません。BIZCOREだけでなく、日鉄興和不動産が展開する様々なブランドで多様なラインアップを提供しながら、お客様のニーズに応えていきたいと考えています」

 

最後に

今回のBIZCORE飯田橋のプロジェクトを通じて感じたのは、オフィスという空間が「完成されたもの」から「活用し、変化させていくもの」へと、その価値観を大きく変えつつあるという確かな手応えでした。

「きもちいいほど、はかどる」というコンセプトは、単に高機能な設備を整えることだけを指すのではありません。働く人々の変化に合わせて、空間そのものがしなやかに姿を変えられること。その「可変性」こそが、これからの時代の心地よさにつながるのだと思います。

私たちfittingboxが提供するサブスクリプションサービスが、単なる家具のレンタルではなく、こうした「空間の更新可能性」を支えるインフラとして機能していることを、今回の取材を通して改めて実感しました。

「完成」ではなく、入居者とともに「育てていける空間」へ。 BIZCORE飯田橋の取り組みは、これからのセットアップオフィスのあり方を示す、一つの重要な指針となりそうです。

(取材・文:fittingbox編集部)

 

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