fittingboxとデザイナー【設計・伊藤 武史氏】
馬車道に新しく誕生した株式会社テラのオフィスは、インターオフィスが中心となって構想を進めたプロジェクトです。設計パートナーとしてstudio OCULUSの伊藤 武史氏を迎え、コンペ段階からともに空間づくりを重ねてきました。
家具のサブスクリプションや設計・施工の一貫体制といったインターオフィスの強みを生かしながら、製作家具はVUILD(担当:風祭氏)が手がけています。
“風を起こす”という企業テーマをどう空間で表現するか――
その試みの背景と想いを、設計を担当した伊藤氏に寄稿いただきました。
(文責:伊藤武史)
エントランスに待ち受ける大きく湾曲したカウンター。訪れた人の動線はその突出部を巻くように誘導される。その傍に吊るされた半透明の軽いカーテンは、歩いた人の動きを追うようにふわりと揺れる。
横浜馬車道に構えた株式会社テラの新オフィスでは、社のモットーでもある「社会に風を起こそう」を空間体験として形に落とし込んでいる。大きな風ではなくゆらりとした微かな空気の揺れ。当たり前の現象と言ってしまえばそれまでだが、間接視野に入ってくるその小さな変化が、ふとした瞬間「自分が動いて働いて風を起こすんだ」という企業コンセプトを思い出させてくれることを期待している。
湾曲型のカウンターは“風”や“人をはぐくむストーリー”を着想にした、思い入れのあるオリジナル家具。スタッフの皆さまが、用途を工夫しながら愛着をもって使っていただけているそうだ。こうした「気づき」や「愛着」がモチベーションや愛社性を上げてくれることを意図して設計した。
一体空間のゾーニング
空間全体はワンルームの一体空間を基本としていて、会議室のガラスパーティションを除き、間仕切りを用いずに半透明カーテンと家具の存在でゾーニングをしている。古いビルテナントで、決して高いとは言えない2.4m足らずの天井高さ。細かく仕切るのは避けて、ある程度の見通しと心理的な風通しのよさを得るゾーニングとしている。
エントランス回りは、コミュニケーションゾーンとして、会議やブリーフミーティングができるパブリックゾーンがひと目に見渡せる構成となっている。
ガラス張りのフォンブース家具や1.4mのやや背の高いソファーミーティング家具で、圧迫感なく空間の隔てを設けており、奥に個人作業に集中できるプライベートゾーンがある配置計画となっている。
空間の中心にはわたしたちが“風冠カウンター”と呼んでいる漢字の風冠のような平面形状の湾曲カウンターがあり、気軽なコミュニケーションやライトワークの場所となると同時に、同じ形式で作られた植栽鉢植えとともにエントランスの顔となっている。
“風を起こす”をかたちに
同社は、システムソリューション、モバイルショップ運営、法人携帯サービスなど多岐にわたる事業を展開しており、面白いと感じたことには果敢にチャレンジする自由な気風をもっている。スタッフ皆さまの名刺には「風を起こそう。」と書かれており、実際にお会いしてみても、新しい事業への挑戦を熱く語る姿が印象的だった。個々が社会にチャレンジする姿勢を感じ取ることができた瞬間だった。
新オフィスのしつらえとしても”風”がテーマになるなとすぐに思った。もうひとつ、「”ひと”がもっとも大事な会社の資産」と位置付けているのも印象的で、一人ひとりが使い方を考えながら、能動的に働き方を計画できるオフィスであることも大事になると感じた。
目指すオフィス像 ―設計・施工・家具と概算をトータルに検討
コロナ禍以降、在宅勤務のオペレーション方法やアプリケーション等の利便性はより充実してきているが、同社でも在宅勤務の比重が高くなっている。鎌倉の旧オフィスからの転居を決め、馬車道に新オフィスの場所は定まったものの、オフィスを構えること自体の意義やあり方については思案の余地を残していた。
移動部署や予算といった要件も流動的な状態であった。インターオフィスは設計から施工、家具までまとめて請け負うことができるので、全体像を設計で模索しながら、家具まで含めたトータル費用を提示することができる。
そのため、可能性のあるパターンを複数設計しながら、新オフィスで出来ることを共に考え、予算を調整しながら固めていった。
打ち合わせ回数や計画時間は増えたものの、お互いに情報やアイデアを持ち寄って話す機会も増え、結果的にコスト・内容ともに納得のいく形に仕上がったと感じている。
常勤のスタッフに限らず、各方面で活躍するスタッフが気軽に立ち寄り、顔色を確かめ合ったり、近況やアイデアを交換できるーー。
コミュニケーションスペースをいままでよりも充実させることで、“ひと”が集まる、”ひと”を巻き込んでいく、そんなオフィスのあり方を目指す計画となった。
サステナブルとコストの両立 ― サブスクという選択
クライアントの懸念として、オフィス移転のたびに購入した家具が倉庫に眠り、造作家具が廃棄になるサイクルをどうにかしたいという課題があった。たしかにエコロジーの観点からもコストの観点からも必要以上の無駄は省きたい。
その点、インターオフィスの提供するオフィス家具のサブスクリプションサービスは、社会のストックとしての家具が、さまざまな場面で短期的に使用され、循環していく仕組みといえる。長く使った結果、気に入って買い取られることも多いということだが、購入かサブスクかにかかわらず、サブスクはイニシャルコストを大幅に削減できるのがなにより魅力的だ。まとまった予算の見通しがたたずにオフィス移転計画に足踏みするような状況にもひとつの手助けとなる。また、フォンブースのような大型家具からおしゃれな海外製のデザイン家具まで、ほとんどの取扱製品がサブスク対象なのも好印象だ。
同社がインターオフィスへ依頼を決めた背景にも、このフィッティングボックスの形態に魅力を感じたからとのことだった。
また、すでにお持ちのデスク(PC本体を天板裏に設置できる工夫のあるもの)やチェアやロッカーといった既存品も極力再活用し、エコロジーやコストにも配慮した。
意匠をこらしたパブリックゾーンと使い慣れた家具で構成された集中ゾーンが新旧家具を織り交ぜてパラレルに併存するゾーニングとなったが、それは、過去の建造物を生かしつつ新しい息吹を吹き込んで活用している馬車道という街自体にも通じているのかもしれない。
既存を残す、既存を活かす ―新旧要素のコストコントロール
テナントそのものへの手入れも最小限にとどめた。天井高さの圧迫感を軽減するために、天井ボードを撤去したが、その範囲は社外からのゲストも訪れるパブリックなエリアにとどめた。床のフローリングも同じ範囲に限定している。一部に限った施工ながらも、エントランスで感じられる開放的な雰囲気が、全体の意匠性に寄与している。
空調設備も既存を活かし、移設せずにエリア構成を工夫することで、原状回復時のコスト負担にも配慮した。また、天井高さの圧迫感軽減と風通しの良い一体感を生むために、ガラス張りの会議室以外には、パーティションを設けていない。”風”のテーマにもなる半透明のカーテンが、しっかり見れば見えるけど、気にしなければ気配を感じる程度といった、ゆるやかな空間分けを担う。
またガラス張りフォンブース家具や背の高いソファミーティング家具も、視線や気配を阻害することなく、全体の一体感を崩さずにパーティションを代替する役割をしている。既存の壁もすべて手を加えない計画となっている。
風冠カウンター -ふるまいを想起させる家具
既製品だけでは、この企業ならではのオリジナリティの発現はむずかしい。そこで、エントランスからの顔にもなり、みんながそよそよと寄り付いてくる核になる“風冠カウンター”をオリジナルで作成した。
平面的にはコの字が各辺押し込まれた漢字の風冠の形状になっていて、着座部分は“湾”型のへこみに抱かれた安心感とプライベート感を感じられる。突き出た“半島”部分はコーヒーブレイクに訪れたり、通りがかった人が軽く立ち話をする寄り付き場に。実は、半島が突き出るデザイン自体が「しかけ」であって、ひとの通り道(動線)を自然とカーテンのそばに誘導し、“風”がふわりと可視化されるのだ。
またカウンター下の窪みになる“洞”の部分は足が入るように設計されていて、「座るのはここだよ」と暗示している。そこにあることで人の動きにドラマやストーリーを生む、そんなアフォーダンスとしての家具のあり方を追求した。このカウンターはエレベーターホールから見えるエントランスの構えにもなっていて、大きな植栽の鉢植えと意匠を合わせてオフィスの顔になっている。
“人”をはぐくむ会社の姿勢を植栽鉢になぞらえ、突き出た“半島”部分の立面形状は鉢植えの相似形としている。遠目には湾曲部で語らうひとの上半身がひょっこり見えて、植栽が植わるように人もすくすく育っている、ちょっと比喩としては無理があるものの、そんな景色を想像している。
天板はユニットごとに製作するため、当然継ぎ目が出てくるのだが、あえて継ぎ目を利用して風の紋様をデザインした。VUILDのデジタルファブリケーションで製作するため、躊躇なくグニョグニョとしたデザインを採用できた。
製作手法はデジタルではあるが、やさしい肌触りのリノリウムの天板や床に合わせた木調の立面、またその立面のジグザクとずれた継ぎ目形状は、“風”や“人”への気持ちがこっそりこめられた温もりあるたたずまいとなっている。
風冠カウンター ―デジタルな道具とオペレーターの知恵
平面も立面も曲線形状のカウンターをどうつくるか。製作はデジタルファブリケーション界を牽引するVUILDに依頼。3Dモデルデータを元に、機械による精密加工から組立て、仕上げまでを行った。
とはいえ、外形データがあったとしても、製作機の特徴に沿った部分詳細がデータ化されないと加工に移行できない。加工後もそれをどう正確に組んでいくかの構想が必要で、デジタルといえどもオペレーションを担う人の経験と知恵が欠かせない。
VUILDには構造・組立・重量などの細部検証を落とし込みながらの3D詳細設計を行ってもらった。大型のため9つのユニットを現場で一体化するのだが、デジタルの強みを生かして分割目地自体も複雑に入り組ませる構成を試みた。今回は切り出した水平積層パーツをどう正確に組んでいくかという点もプログラム化したとのことだ。
果たして現場ではデータ通り、狂いなく一体化した。着座時に足が入る“洞”部分もインターオフィスのスツールを使用し、座るための必要十分寸法を確かめて3Dモデル上でぐにゃりと掘り込みをつくる。天板の分割目地も自由曲線で”風紋”を描く。
デジタルの強みを生かしたカウンターが仕上がった。
多様な働き方を叶える ― “居場所”をデザインする
オフィスでの過ごし方は実に多様だ。一人で集中して作業するときもあれば、誰かに軽く相談したり、チームで意見を交わしたりする時間もある。社外との打ち合わせや、上司・部下との対話、ときにはコーヒーを飲みながら雑談を交わすこともある。ランチの場所だって大事になる。
今回の新オフィスでは、そうした多様な過ごし方に応えるために、インターオフィスが持つバリエーションある家具と、同社が大事にしてきた既存家具を併用し、さまざまなワークシーンを提供するようにゾーニングを行った。
例えば、コーヒー片手に人が集まるカウンターでのライトワーク。オープンな場所に六角形に組まれたフリーアドレスからは、街路樹のイチョウを眺めながらおひとりさまでも、在宅勤務メンバーと集まって意見交わしながらの作業もできる。
立って仕事をするハイデスクゾーンには、ホワイトボードやモニターを搭載した多機能家具でライブディスカッション。可動式のため、ホール全体を巻き込んだスタジオレクチャー風に活用することも。
ガラス張りのフォンブースは、視線が抜けながらも防音性が高く、社外秘の打ち合わせにも安心して利用できる。
また、4人用ソファミーティング家具は、周りからの視線と音を低減し、程よい囲われ感がある。ひとり作業や、新人2~3人へ指導の場としても活用されている。閉鎖的な会議室はガラス張りの一室にとどめ、オフィス全体に”接点”の場をちりばめた。スタッフ一人ひとりが、その日の気分や業務に合わせて場所を選び、使い方を工夫しながら空間を使いこなしてほしいと思っている。
最後に
在宅勤務がうまく機能している体制の中で、今回のオフィスづくりによって、“サッと立ち寄り、顔を合わせながら互いのモチベーションを確かめ合う”。そんな活動の場が新たな選択肢として加わった。
テラの佐藤社長は「植物の毎日のわずかな変化にも気が付ける余裕のある視野が大事な資質」と述べられていた。
本オフィスではふんだんに植栽を計画したが、毎日水やりして植物を愛でることも大事なスタッフの日課となっているそうだ。カーテンのそよぎもしかり、ちょっとした気づきが大事なのだ。同じように“ひと”を大事にするこの会社で、スタッフひとりひとりをお互いに気遣いし合える雰囲気が醸成されることが楽しみである。
【設計】studio OCULUS
伊藤 武史 プロフィール
■来歴
1977 年生まれ
東京、大阪、福岡、鹿児島にて育つ
東京大学法学部卒業後、早稲田大学建築学科卒
勤務歴:田辺計画工房、NAP 建築設計事務所
■過去の実績
個人住宅、集合住宅、週末住宅
オフィス、自動車ショールーム、
ホテル、クリニックなど。
空間に込めるデザインにできることはあくまで主役であるひとの所作を補完する程度のものです。しかし動きの流れや気持ちの変化に与える影響も大きいです。時間とともに変化する光、風、みどりを感じられるようなひと・家族の居場所づくり(箱ではなく意味を感じる空間)を目指しています。施主や現場と丁寧なコミュニケーションが丁寧なものづくりに現れる、そういう思いで日々設計を行っています

【家具製作】VUILDプロフィール

