“足腰”としての建築──インターオフィスが新たに構えたワーキングセンターに込めた合理性と拡張性
家具を届けるということは、空間の質を届けること。
その背後には、あまり目立たないけれど、なくてはならない存在――ワーキングセンター(物流倉庫)があります。
2025年春、インターオフィスは茨城県五霞町に新しいワーキングセンターを完成させました。
「GWC(GokaWorkingCenter)」と名づけられたこの施設は、家具の輸入販売に加え、fittingboxが展開するオフィス家具のサブスクリプションを始め、クリーニングやメンテナンス事業といった循環型サービスを支える“戦略的な拠点”として設計されたものです。

「ワーキングセンターは、インターオフィスにとって“足腰”のようなものなんです」
そう話すのは、インターオフィスでこのプロジェクトを担当した西田。
西田は、インテリアデザイン部に所属し、普段はオフィスの設計やプロジェクトのマネジメントを担当している。建築設計のバックグラウンドも持ち合わせていることから、今回のプロジェクトでは、発注者という立場を超えて、設計監修にも深く関わりました。

その前に、このワーキングセンターが新たに必要とされた背景について少し触れておきたいと思います。
同じ場所には以前、インターオフィスの旧倉庫がありました。長年使われてきましたが、サブスク事業の開始から4年が経ち、循環品のメンテナンスや回収の機会が急増。既存のスペースや動線では対応が難しくなっていました。
さらに、インターオフィスの強みは、高品質な家具や空間のデザインを提案するだけでなく、それを納品・施工・運用まで一気通貫で支える物流体制にあります。毎日大量に入荷する商品を、スタッフが責任を持ってスムーズにお客様の元へ届けている──。
だからこそ、こうした“足腰”を担うワーキングセンターの強化は、事業拡大に欠かせないステップでした。それが、このプロジェクトの出発点だったのです。
削ぎ落として見えてきた、ワーキングセンターの“潔さ”
面積、構造、動線、コスト、そして法規制。
それぞれの条件のバランスを見極めながら、どこまで無駄のない空間がつくれるか。
今回のワーキングセンターは、そんな合理性の追求から始まりました。
敷地に対して建ぺい率をできる限り使い切る一方で、最終的に選ばれたのは4階建ての構成です。法的には5階建ても可能でしたが、そうなると構造や耐火性能のハードルが一気に高くなり、コストも膨らんでしまいます。
「本当に必要な規模はどれくらいなのか?」を改めて見つめ直した結果、4階という選択肢にたどり着きました。
「法規的には4階建てですが、倉庫部分の空間構成としては3層です。倉庫スペースは高い天井高が必要なのですが、事務室やトイレなど天井高をあまり必要としないスペースもあります。そこでそれらの機能を集めて部分的に積層しました。倉庫スペースの中に中間階があるような形です。この積層構成によって、機能を損なうことなく空間効率を高めることができました。」と西田。


また、トラックバースを屋内に取り込んだ構造も大きな特長です。外壁から庇を伸ばして設置することが多いトラック接続部分ですが、大庇は構造的な負担も大きく、将来的にメンテナンスに悩まされるリスクもあります。そこで、あえて建物の内部にピロティのようにトラックバースを設けることで、風雨の影響を抑え、作業のしやすさを確保しています。


また、通常外構部分に設置することも多い空調室外機やキュービクルなどは、最上階の屋上エリアに集約しました。メンテナンスがしやすくなるだけでなく、大雨などによる浸水リスクも軽減できます。

働く人の目線でつくるということ
このワーキングセンターには、もうひとつの“設計図”がありました。それは「ここで働く人が、どうすれば気持ちよく過ごせるか」を考え抜くことです。
自然光が入る居室、センター内全体を見渡せるガラス窓の配置。
こうした要素の一つひとつが、心理的にも身体的にもストレスの少ない空間をつくり出しています。

「普段自分たちが働いている場所を見下ろすことで、ちょっとした気持ちの切り替えや、自身の作業を俯瞰的に見直してみるきっかけになれば」とあえて設置した事務所の窓。

「過酷になりがちな環境だからこそ、ふとした時に外が見えるとか、光や風が入るとか、それだけでも気持ちは大きく変わると思うんです」と西田。

実際に現場で働くスタッフの声も、細部の設計に活かされています。例えば、休憩室やトイレの配置、シンクの高さ、スイッチの位置など、使い勝手に直結する部分を丁寧に検討していきました。
働く人を大切にしたい――。
そんな思いが、空間の設計にもさりげなく表れています。

“らしさ”を表す、色とサインのデザイン
ミニマルな印象のこのワーキングセンターの中に、インターオフィスらしいディテールがいくつか忍ばせてあります。
例えば、エレベーターの扉や壁面のカラーリング、鉄部の塗装には、スイスの家具ブランド「USMハラー」のカラーパレットを引用。

USMの家具を知る人が見れば、どこかで見たような色味だと感じるはずです。とくに、トイレのピクトグラムは、USMのボールの形状を模してつくられました。

「多分、誰も気づかないと思いますけど(笑)」と西田は笑う。
階段のサインや、サインの配置方法にも“伝えすぎず、でもきちんと伝える”工夫が凝らされています。
さりげなく、けれど確かに、ブランドらしさがにじむ空間となりました。
アッセンブリースペースは、“これから”を支える場所に
このワーキングセンターには、「アッセンブリースペース」と呼ばれる多目的エリアがあります。
fittingboxや循環型サービスが今後さらに広がっていくなかで、家具のクリーニングやリペアといった作業に対応できるよう、十分なスペースと空調・電源環境の他、リペアに必要な新たな設備を導入しました。
そうした必要な作業が効率的に行える場所であることはもちろん、検討段階の新たなサービスの展開にも対応できる余地を残しています。

「何をやるかはっきりしないからこそ、“とりあえず何とかなる”状態にしておくのが大切なんです」と続ける。

用途を決めすぎないことで、事業の変化にも柔軟に対応できる。
アッセンブリースペースは、そうした“可能性の部屋”として、この建物の中にそっと存在しています。
気がつけば、近代建築の原則に重なっていた
「余談なんですが、完成に近づいた時にふと思ったことがあって・・・ピロティやフレキシブルな平面計画、水平連続窓、屋上の設備スペース……これってル・コルビュジエの『近代建築の五原則*』に近いですよね?(笑)」

ピロティ(=トラックバース)、自由な平面(=純ラーメン構造)、自由な立面(=設備や開口部の配置)、連続窓(=居室スペースの水平窓)、屋上庭園(=設備機器スペース)。
「もちろん意識したわけじゃないんですが、合理性を突き詰めていったら、結果的にモダニズムのボキャブラリーになっていたのかも」
「モダニズムって、もともとは新しい技術で人間の生活を豊かにするための思想だったはず。でもいつのまにか、資本主義や経済性に飲み込まれて、置き去りにされた部分もあると思うんです」と設計思想を語る。
このワーキングセンターは、そうしたモダニズムの原点に、偶然にも立ち戻るような設計になっていたのかもしれません。
「我々はモダニズムの時代にデザインされた家具も多く取り扱っていますし、建築や空間との関係も深い仕事です。普段自分たちが扱ってるものごとについて、改めて考えるきっかけにもなったので、担当して本当によかったと思いました。大変でしたけど(笑)」と西田は笑って振り返った。
*「近代建築の五原則」とは、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエが提唱した近代建築の基本概念で、「ピロティ(柱で建物を持ち上げる)」「自由な平面」「自由な立面」「水平連続窓」「屋上庭園」の5つで構成されます。
まだ未完成という、完成形
このワーキングセンターには、まだ整えていない部分もあります。たとえば外構や緑地の整備は、今回は最低限の範囲にとどめました。
「もっときちんと整えたかった部分もありますけど、“あとで手を加えられる”楽しみとして残しておくのもいいかなと思ったんです」

建物の外壁には、社名も大きく掲げていません。「近くに来た人が気づけばいい」くらいの、ちょうどいい控えめさです。
完璧を目指すのではなく、“これから育っていく”建物としてつくる。使う人や働く人と一緒に、少しずつ姿を変えていけるワーキングセンター。

「機能を突き詰めると、自然とシンプルに集約されていって、それが結果として潔さを持った建物の姿になる──そんな手応えがありました」と西田。

機能とデザインは相反するものではなく、むしろ重なり合っていく。そんな考え方が、この場所の空気にも表れているようです。

これから少しずつ変わっていく姿こそが、この建物らしさを育てていくのかもしれません。
