再解釈から始める、サステナブルなオフィスデザイン 【後編】— SAKUMAESHIMA×インターオフィス対談

再解釈から始める、サステナブルなオフィスデザイン 【後編】— SAKUMAESHIMA×インターオフィス対談

前編では、SAKUMAESHIMAとインターオフィスが実際に取り組んだ事例を紹介し、“手を加えすぎない”という共通のスタンスについて考察しました。後編では、“サステナブル”という言葉の枠を広げながら、実務者たちが日々の仕事の中でどのようにこのテーマに向き合っているのか、その思想やリアルな視点に迫ります。

※この記事は「前編」からの続きです。まだお読みでない方はこちらから

目次

5.サステナブルって、何だろう?

6.家具的なアプローチと“中間領域”の可能性

7.参加者からの質問

8.制約は、創造のはじまりか?

まとめ:サステナビリティは“制約”ではなく、“可能性”

※目次の1〜4は前編をご覧ください

 

5.サステナブルって、何だろう?

日々の判断が積み重なる“サステナブル”

質問)普段の業務の中で「サステナブル」という言葉をどの程度意識されているでしょうか?

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):難しいですよね。どうしても「建設」がついてくる仕事なので。でも、無駄なものはできるだけ作らない。必要なものだけを作る。あるいは代用できるものがあれば代用する。空間自体を代用することだってある。そういう判断を常にしていると思うんです。それが、結果としてサステナビリティに近づいているとすれば嬉しいなと。

インターオフィス(西田さん):正直なところ、普段の仕事の中で「サステナビリティ」という言葉自体を強く意識しているかというと、あまりしていないのが実情です。ただ、「持続可能性」という意味では、できるだけ長く使ってもらえる空間にしたいという意識は常にあります。プレゼンの場でも「長く使えるように考えています」という言い方はよくしていて、単にリサイクル素材を使うとか、環境に優しいというよりも、使い続けてもらえる空間をつくるということ。それが結果的にサステナブルにつながるのかなと思います。

設計の思想から家具の細部まで——語りは尽きない
設計の思想から家具の細部まで——語りは尽きない

 

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):我々は空間をつくって家具をセレクトしていますが、インターオフィスさんはvitraのような優れた家具、世界の名作チェアを扱っていて、それをサブスクで回していくという仕組みがある。家具の視点というのはすごく大きいですよね。それを回せるし、リセールやリユースもできる会社だと思うんですが、その辺り、家具の会社としてはどう捉えてらっしゃいますか?

家具の循環とユーザビリティの両立

インターオフィス(西田さん):実は、サブスクを始めると聞いたときは懐疑的でした。「高級家具をレンタルで使うなんて成立するのか?」と思っていたんです。でも、「高品質なプロダクトを社会全体でシェアする」と考えたら、すごく社会的に意味があるし、納得できました。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):オフィスって、プロジェクトごとに予算や期間の制約があることも多いですよね。そういう中で、vitraのような良い家具を“買わずに使える”ってすごくいいですよね。設計にも無理なく組み込めるし、使う人にとっても満足度が高くなる。すごくメリットがあると思いました。

インターオフィス(西田さん):そうですね。特に東京建物さんの場合は、2年後にはなくなるオフィスだと分かっていたので、家具を購入していただくことに少し抵抗がありましたが、サブスクリプションという形がぴったりとハマりました。おそらく、今回の事例は一番規模が大きいのでサブスクリプション事業部にとってもエポックメイキングだったと思います。
ちなみに、東京建物さんのプロジェクトが完成したあと「このまま他社が居抜きで使ってもいいよね」という声が社内で出たことがありました。ある種のユニバーサルな空間ができていたということかもしれませんが、一方でオフィスには「その会社らしさ」も求められますよね。SAKUMAESHIMAさんは、そのあたり、菱熱工業さまのプロジェクトはどのように設計されましたか?

ユニバーサルな空間と“その企業らしさ”の関係

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):菱熱工業さんの場合、いわゆる最先端の働き方とは距離がある会社で、移転前は自社ビルに各部署が分かれて点在していました。しかも、その多くは工場など現場に出ることが多く、本社ビルには人がまばらにいるような状態。
そうした中、それまで部署ごとに分かれていた自社ビルから、テナントビルへと移転し、初めて全員がワンフロアに集約されるという、大きな変化がありました。だからこそ「ブランディング」よりも、その変化を前向きに受け止められるような、豊かで働きやすい環境をつくることを第一に考えました。

変化を受け入れる場づくりとは何か
変化を受け入れる場づくりとは何か

 

インターオフィス(西田さん):むしろ、その環境で日々過ごすこと自体が、その企業らしさになっていくのかもしれませんね。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):そうですね。菱熱工業さまのプロジェクトメンバーの方々とも密にヒアリングを重ね、本当に大切にしたい要素を共有いただいたうえで、私たちはそれを空間に落とし込む役割を担いました。馴染んでいただければと強く思っていました。

 

6.家具的なアプローチと“中間領域”の可能性

SAKUMAESHIMAとインターオフィスの共通感覚

質問)SAKUMAESHIMAの高崎さんは、家具の制作デザインのご経験がある方。だからこそSAKUMAESHIMAは、家具的なアプローチができるチームという印象を持っています。既製品を活かしつつ、用途に合わせて少しだけ変える。お客様に合わせて最適化していくところなど、とてもインターオフィスと近い感覚を感じます。

インターオフィス(西田さん):家具的なスキル、というと少し大げさですが、実際に手が触れる場所への意識はすごく共感しています。例えば「ここがちょっと跳ねだしているだけで違うよね」とか、説明しなくてもこだわっている部分が伝わるような感覚。お客さんに伝えない部分でも、丁寧に考え抜く。そのスタンスは非常に近いと感じました。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):そうですね。オフィス空間は家具によって成り立っているからこそ、その選び方や設えが空間全体に与える影響も大きいと思います。たとえば、今回も30cmほど天板を張り出してもらった部分があるんですが、そうすることで人が自然とそこに寄ってきて、居場所になる。その発想は家具デザインならではだと思います。

手が触れる“ちょっとした工夫”へのこだわり

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):今回のプロジェクトでは高崎が、メーカーの開発担当者と密に連携しながら、パイプの中に配線を通すような構造まで含めて細部まで設計し、現場に落とし込んでくれました。強度計算までしっかりやっていただいて、まさに現場まで一貫して対応できたという意味で、彼が培ってきたメーカーとの関係性の賜物だと思いました。

カスタマイズすることで生まれた人の集まる場所
カスタマイズすることで生まれた人の集まる場所

 

家具と内装の“あいだ”をデザインする

質問)インターオフィスで言えば、vitraのジョインをカスタマイズした事例がありますが、やはり使い方を考えたときに、既製品だけでは成立しないことも多い。そういったときにこそ、家具的なアプローチは有効だなと感じます。SAKUMAESHIMAは家具と内装の“間”のようなサイズ感のものをつくることがすごくうまいですよね。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):そうですね。今回も、棚にビームを渡してそこにカーテンを掛ける。いわば家具なんだけど、建具でも内装でもない、ちょっと中間的な存在。そういった空間内装の間みたいなところはよく作りますね。

中間領域があることで空間に軽さや抜け感も
中間領域があることで空間に軽さや抜け感も

 

インターオフィス(西田さん):壁を立ててしまうのではなく、家具的なソリューションで対応するという発想ですよね。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):そうですね。オフィス空間って、建築的な工事区分も含めて全体を俯瞰してみる必要がありますが、家具で構成していくと、お客さんと一緒にじっくり検討する時間が持てるんですよね。壁や仕上げはスピード優先でどんどん決まってしまいますけど、家具ならそこに滞留して、ちゃんと議論ができる。結果として、使う人の満足度や空間の質が高まることに繋がると思っています。

 

7.参加者からの質問

質問1:サブスクは本当にサステナブル?

質問者: いいものを長く使うという観点では、インターオフィスやSAKUMAESHIMAの取り組みは素晴らしいと思っています。ただ、サブスクという仕組みが本当にサステナブルなのか?という点については、疑問に感じる人もいると思います。返却された家具はその後どうなるのか?再利用や再流通の仕組みについて詳しく教えていただけますか?

回答:インターオフィスがやっているサブスクモデルは、返ってきた家具を再メンテナンス・再流通させることを本気で前提にしています。新品販売とは異なり、1回貸しただけではビジネスとして成り立たず、2回転目、3回転目を見越した設計になっているのが特徴です。
例えば表向きはサブスクのような仕組みでも、譲渡や買い取りを前提にしたようなケースも少なくないようです。様々な選択肢があるのは良いことですが、インターオフィスはこうした一過性の提供にとどまらず、本当の意味で“回収・循環”をビジネスモデルの中核に据えている点が、大きな違いであり、強みだといえます。

なぜこれが可能になっているかというと、メーカーとの強固な関係性があり、取り扱いメーカーの多くは、廃盤が少なく、パーツの供給体制にも支えられています。また、自社にクリーニング設備を整えているので、返却された家具を洗浄・修理して、再び現場で使えるようにしています。最近では中古品であること自体が、むしろ“循環型である”という点でポジティブに受け止められるケースも増えていて、お客様からも「それでいいんです」と言ってもらえるようになりました。このように積極的に循環品を提案をしていくことで、カルチャーを醸成していくことも使命と感じています。

“使い捨て”から“循環”へ。オフィスチェアも20年使える時代へ
“使い捨て”から“循環”へ。オフィスチェアも20年使える時代へ

 

質問2:”サステナブル”って、どこまでを含むの?

質問者: 「サステナブル」という言葉ってすごく広い意味を持っていますよね。環境だけでなく、産業の持続性、人の営みまで含めるとしたら、設計やデザインにどう落とし込むべきなのか、悩ましく感じます。建築出身の皆様にとって持続可能性というのを普段どういう風に捉えていますか?

インターオフィス(西田さん):サステナビリティって言葉を使う時、どこか気持ち悪さを感じることがあります。なぜなら、その意味合いが限定された枠の中だけで語られがちだから。でも、その枠がずれたり広がったりすると、矛盾や疑問が出てくる。多くの企業やメーカーがそれぞれの枠組みの中で努力しているものの、その枠がずれたり広がったりすると、矛盾や疑問が生じるのは当然だと思います。ただ、その枠組みは今まさに広がり、重なり合いつつあるので、もう少し時間が経てば、私たちが目指すサステナビリティの全体像が見えてくるのではないかと思っています。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):枠組みって、確かにたくさんありますよね。どこで物事を測るかによって、意味合いが大きく変わってくる。僕は、長く使えるものを選びたいし、手に入れたい。そのためには、壊れたら直しながら、丁寧に使っていきたいと思っていて。設計する立場としても、長く使ってもらえるような普遍性のあるデザインを意識するようになります。そうすると、「じゃあ、どんなデザインなら長く使えるんだろう?」って、また考えることになる。

インターオフィス(西田さん):うん。シンプルに愛着を持ってもらえるようなものを作りたいとは思ってますよね。そのためにはお客さんとたくさん会話をするし、考えるしという普段やってることがサステナブルなのかもしれないですね。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):プロジェクトを進める中でも、最後のGOサインをどこで出すか、メンバーと毎回考えるんですけど、結局「自分が欲しいかどうか」っていうのが基準になってくるんですよ。もちろんお客様のために作るものなんですけど、やっぱり自分たちが「これいいな」と思えるかどうか。そこに愛着が湧くし、それが最終的な判断基準になっている気がします。

最後の判断基準は、“自分が欲しいかどうか”
最後の判断基準は、“自分が欲しいかどうか”

 

8.制約は、創造のはじまりか?

“作り込みすぎない設計”という視点

質問)最後の質問として、このサステナビリティを踏まえて、オフィスデザインで考えていかないといけないんじゃないかなと思ってるんですけども、そういう制約みたいなものに可能性を感じますか?それは制約と感じるのか、 新しい視点として持てるのか、いかがでしょうか。

インターオフィス(西田さん):そうですね。サステナブルという言葉自体はすごく広くて、扱いが難しい部分もあります。たとえば「再生材を使う」とか「ゴミを出さない」といった物質的な視点もありますが、それだけではありません。今回のように、空間を長く使うという視点から考えると、“作り込みすぎない”“余白を残す”といった設計のあり方にもつながってくると思っています。

10年前までは、企業が「会社の象徴」としてオフィスを作り込む傾向がありました。でも最近では、クライアント側の意識も変化してきて、漠然とサステナブルという言葉を理解しきれていないものの、「変化に耐えられる設計」や「家具で柔軟に対応できる構成」に価値を感じる声が増えています。僕らも、なるべく工事をせず、あとから変えられる仕組みを取り入れようと意識するようになりました。

だから、サステナブルを“制約”と捉えるよりも、これからのスタンダードとして、それを前提にしたうえで、どれだけクリエイティビティを発揮できるか。そういったクリエイターが今後たくさん出てくるでしょうし。デザイナーやクリエイターの力に期待したいなと思っています。

制約の中で生まれる新しい価値

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん):制約はあったほうがいいと思います。サステナブル自体を“制約”と感じたことはあまりないですが、そういった制約がないと新しいものは生まれないと思っています。
歴史を振り返っても、限られた条件の中から新しい価値が生まれてきた事例って多いですよね。

制約があるからこそ、新しい価値が生まれる
制約があるからこそ、新しい価値が生まれる

 

まとめ:サステナビリティは“制約”ではなく、“可能性”

「サステナブルなオフィスを実現する」この言葉だけを見ると、どこか堅く、難しそうに聞こえるかもしれません。ですが今回の対談を通じて見えてきたのは、サステナビリティは特別な思想ではなく、日々の判断や工夫の積み重ねの中に自然と宿るものだということでした。

既存の空間に“余白”を見出し、再解釈することで価値を引き出すSAKUMAESHIMA。家具を“構築要素”として捉え、変化に対応しやすい環境をつくるインターオフィス。それぞれの実践には、共通して“触りすぎない”というスタンスと、空間の本質を見極める視点がありました。

また、建築的な思考を背景に持つ両者が、俯瞰的な視点で空間を捉え、物理的な制約や変化に柔軟に対応していく姿勢も印象的でした。それは、“サステナブル=我慢”ではなく、“サステナブル=選択肢を広げること”であるという認識につながります。

「サステナブルだから仕方なく」ではなく、「サステナブルだからこそ面白い」。制約を受け入れることで、創造の余白が広がっていく・・・。そんな希望を感じる対談となりました。

 

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▼関連リンク
SAKUMAESHIMA: https://sakumaeshima.com/
インターオフィス: https://www.interoffice.co.jp/

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