再解釈から始める、サステナブルなオフィスデザイン 【前編】 ーSAKUMAESHIMA×インターオフィス対談

1.はじめに
オフィスづくりにおいて欠かせないキーワードとなった「サステナビリティ」。しかし、それを現場でどう実現するのかは決して簡単な話ではありません。環境に配慮した素材を使う? なるべく内装を触らない? 長く使える空間にする?
正解のないこの問いに対して、日々の実務を通じて自分たちなりの向き合い方を模索しているのが、今回の登壇者たちです。
登壇したのは、建築設計事務所・SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん)、そしてインターオフィス(西田さん)。いずれも建築のバックグラウンドを持ちながら、それぞれの立場から“手を加えすぎないデザイン”に挑戦しています。
今回の対談では、彼らが実際に手がけたふたつのプロジェクトを起点に、「本当にサステナブルなオフィスって、どんなものだろう?」という問いを深掘りしました。ここでは、事例紹介やクロストークの様子、そして参加者との質疑応答を通じて浮かび上がった「サステナブルデザインの現在地」をお伝えします。
(※この記事は前編です。後編では「家具の再流通」や「サステナブルの定義」など、さらに深い議論を取り上げます)
目次
1.はじめに
2.SAKUMAESHIMAが語る「余白」と「再解釈」のデザイン
3.インターオフィスの家具サブスクが拓く選択肢
4.“手を加えない”という選択肢は成立するか?
2.SAKUMAESHIMAが語る「余白」と「再解釈」のデザイン
事例:菱熱工業株式会社のオフィス構築
「既存の状態」に目を向けるという設計の出発点
今回は、我々が最近手がけた事例をひとつご紹介しながら、漠然と語られがちなサステナビリティについて、実際にどう向き合っているのか、どんなことを考えながらつくっているのか、お話しできたらと思っています。
我々が大事にしているのは、まず“既存の状態”に目を向けること。建築であれ、インテリアであれ、その場所やモノがもつ元の姿を一度受け止める。素材や空間の持つ意味を再解釈し、そこからどんな価値を引き出せるかを考えています。つまり、ビルならビル、敷地なら敷地、モノならモノ・・・。
そういったものに一度立ち止まって目を向けてから、デザインを始めるという設計をしています。
菱熱工業本社の再構築プロジェクト
その中で、昨年2024年に竣工した、品川の御殿山にある菱熱工業さまの本社をご紹介します。さまざまな設備をエンジニアリングしている会社で、移転に伴う計画でした。移転場所の既存ビルは、カーペットが敷いてあって、外の景色がイチョウの並木で、すごくいい場所。
システム天井など標準仕様の内装ですが、既存の状態に目を向けると、まず印象に残ったのが、少し赤みを帯びたカーペットでした。これはもしかしたら空間のアイコンになり得るのではと感じ、このカーペットを活かす方向で空間づくりを進めることにしました。

カーペットから広がった空間のデザイン
空間内には、カーテンで仕切れる半個室のようなブースを設けました。手前には整然とデスクを配置し、全体としてはシンプルな構成です。会議室は4室のみで、その他はすべてワンルーム。プロジェクトルームと業務スペースを用途に応じて柔軟に使い分けられるようになっています。
プロジェクトルームと業務スペースが対になっているのは、部署の人数や働き方がすぐに変わってくるため、このような変化に対応できるよう、大きなゾーニングの中に少しずつ緩やかなルールを設けるという設計にしました。

家具の再解釈と空間との調和
かなりオープンな空間なので、今回はゆとりを持たせた計画にしました。そこに什器だけを配置し、メーカーに開発を依頼して、既存のデスクをベースに、天板を少し延ばすなどのカスタマイズを施しました。空間はワンルームですが、什器側で人が寄り付きやすい場所をつくる工夫を凝らしています。
ブースの間の小道を抜けると、開けた場所にコミュニケーションが取れるカフェカウンターとカフェラウンジがあります。

全体の色調も既存カーペットに寄せ、什器やカーテンもそれに合わせてトーンを整えました。結果として、空間全体が自然と調和のとれた構成になったと感じています。

物件に入ってみると、壁などもすでに仕上がっているので、そのまま使える状態ではありましたが、見直すことで“活かすべき価値”が見えてくる。使える要素を見極めて残し、足りない部分だけを補っていく、そうしたアプローチの積み重ねが、結果的にサステナブルな空間づくりにつながっていくのではないかと感じた事例です。
3.インターオフィスの家具サブスクが拓く選択肢
事例:東京建物の日本橋ビル増床プロジェクト
東京建物の“期間限定オフィス”という条件
東京建物さまのこのプロジェクトは、2026年の本社統合移転を見据えた“期間限定のオフィス”という前提がありました。背景には社員数の急増があって、ワンフロア400坪を増床することに。初めから“家具はサブスクで”という要望もありました。
実はその少し前にも、東京建物さまと増床プロジェクトをご一緒していて、そこではコワークエリアの家具を、全てサブスクで構成しています。
今後も人員が増える可能性があり、将来的に執務スペースが拡張される可能性があったので、コワークエリアは家具を購入せずに借りて必要なくなったら返すといった戦略をとっています。1年後には、予想どおりに執務エリアが拡張され、東京建物さまとしてもサブスクがすごく有効だと実感していただけたようで、今回の日本橋ビルでも全面的にサブスクを導入することになりました。

柔軟なゾーニングとグループアドレスの考え方
プランニングは、我々から複数のゾーニング案やレイアウトを提案して、それをもとにクライアントと話し合いながら詰めていき、最終的には、来客エリアに最小限の壁を立て、あとはワンルームで構成するシンプルなゾーニングに落ち着きました。
中央にはオープンミーティングスペースを設けて、統合移転のプロジェクトチームが実証実験スペース(50坪)としても活用できる場所にしています。その左右にグループアドレスの考え方をベースにワークスペースを配置し、壁面には収納、コピー機まわりはコア側に集約することで、動線を整理しました。家具は基本的にサブスク前提で構成していて、受付カウンターも既製品をベースに構成するなど、造作家具は極力減らしています。
フレキシビリティを高める家具のサブスク活用
特に注力したのは、中央エリアの柔軟性。可動性の高い什器を中心に構成していて、打ち合わせやセミナー、イベントなど、用途に応じて自在にレイアウト変更できるようにしています。
今回のプロジェクトで最も多く導入した家具が、vitraのジョイン2という新製品です。これは両端に脚があるので、長いスパンを確保できて、椅子を増やすだけで人員増にも対応できます。とはいえ、標準サイズは日本のオフィスにはやや大きすぎるので、インターオフィスの技術部門と相談しながら奥行きや長さを調整しました。ビームが見える部分は“垂れ”で隠して、ちょっとしたデザインアクセントにするような工夫もしています。

コスト削減とサステナビリティの両立
こういった設計やサブスクの導入によって、家具の初期費用にかかるインパクトを95%近く抑えることができました。また、内装にかかる坪単価も抑えることができ、結果的にイニシャルコストの大幅な削減にもつながっています。
デザイン性を前面に押し出すようなプロジェクトではなかったため、プロジェクトの意義を改めて見直す機会にもなりました。
整理してみると、誰でも把握できるシンプルなプランにすること、ある程度の選択性とフレキシビリティをもたせること、サブスクで良い家具を導入できたこと、そして最小限の内装変更にとどめ、家具だけで空間を構成したこと。
これらを通じて、快適性と機能性を備えた空間となり、サステナビリティとユーザビリティの両立を叶えることができたと感じています。
4.“手を加えない”という選択肢は成立するか?
触らないことで得られる空間の豊かさ
質問)今回ご紹介いただいたふたつの事例、共通しているのは“内装を極力触らない”というアプローチだったと思います。とはいえ、それで本当に空間として成立するのか、不安や迷いはありませんでしたか?
インターオフィス(西田さん): そうですね。SAKUMAESHIMAさんは、既存の空間に対してすごくポジティブな眼差しを向けていた印象があります。僕自身はそこまで割り切れなくて、プロジェクトの途中で「やっぱり床材は変えたほうがいいんじゃないか」とか「壁、塗った方がよくない?」って何度も考えました。ただ最終的には「何も変えなくても成立するんじゃないか」と思えてきたというか、“変えない”という選択を受け入れて、思いきって振り切るという判断を自分の中で下したところ、最終的にはその判断に自然と納得することができました。
SAKUMAESHIMA(前嶋さん): 僕はあまり迷いませんでしたね(笑)。
SAKUMAESHIMA(高崎さん):僕はSAKUMAESHIMAと一緒に今回のプロジェクトを担当していたのですが、前嶋や朔と普段からデザインの話をしている中で、「床材がすごい茶色くて逆にかわいいよね」とか、「オフィスのシステム天井って、よく見ると並び方がかっこいいよね」といった会話が日常的にあるんです。そういうポジティブな捉え方が、自然とプロジェクトの中にも活かされている気がします。
建築的視点が導く“俯瞰的”なアプローチ
質問)お二人のアプローチを見ていて感じたのは、根底に“建築的な視点”があるんじゃないかということなんです。実際、SAKUMAESHIMAさんも建築からインテリアにアプローチされていて、西田さんもアトリエ系建築事務所出身という共通点がありますよね。そうしたバックグラウンドが、今回のような“触らない設計”にどう影響していると感じますか?
インターオフィス(西田さん):そうですね。やっぱり空間を“俯瞰的”に見てしまう癖があるというか。たとえインテリアであっても骨格的なものを作りたいなと。骨格や全体構成を意識してしまうんですよね。どんな使われ方をしても空間が持続していくように、長い目で見た視点から考える。そこは建築出身の感覚なのかもしれません。

SAKUMAESHIMA(前嶋さん・朔さん): 意識するのは建築出身というよりも、空間のデザインを考える上で、インテリアであれ建築であれ、既存の状態というところからスタートしていくという考え方が共通してあると思っています。そこにある状態を俯瞰して捉えながら、それをどう目に見えるデザインとして成立させるか。行き来しながら、そのバランスをどこで取るかを考えていくというのが、自分にとってはとても大事な感覚です。
空間の“あり方”を見つめ直す視点が、サステナビリティにつながっていく――
後編では、「サステナブルって、実際どこまで意識しているの?」「家具のサブスクは本当に循環してるの?」といったリアルな疑問に、登壇者たちが本音で向き合います。
── 後編に続く ──