れもんらいふの千原さんに聞く、東急ハラカドでのCXと未来の企業のあり方
原宿の新しい象徴として注目を集める商業ビル「東急プラザ原宿『ハラカド』」。このビルは、「多様な人々の感性を刺激する、新たな原宿カルチャーの創造・体験の場」として誕生しました。
ハラカドの3階に位置するクリエイターズフロアにはfittingboxのオフィス家具が導入されています。
今回はこのフロアにオフィスを構える「れもんらいふ」の代表でクリエイティブディレクターの千原徹也(ちはら・てつや)さんに、ハラカドでの取り組みと未来の企業のあり方についてお話を伺いました。
■ハラカドにオフィスを構えることになった経緯
ー千原さんがハラカドにオフィスを構えることになった経緯をお聞かせください。ー
千原さん:5年ほど前に東急不動産が新しいビルを建設すると発表したとき、TOK(トック)という団体が立ち上がったんです。どのようなビルにするかを話し合う団体で、僕も参加しました。
原宿という場所に立つことは、単なる商業ビルとしての役割を超えて、東京や原宿の文化や未来を担う特別な意味を持っています。たとえば『ラフォーレ原宿』。原宿の象徴として裏原宿を生み出し、原宿の文化を育んできました。
ー千原さんはどのようなアイデアを提案されたのですか?ー
千原さん:原宿にはセントラルアパートがあって、そこにはクリエイターが事務所を構えたり、打ち合わせに来たり、クリエイターが集うことで新しいクリエイションが生まれていたんです。それが原宿の面白さだったので、ここを単なる商業ビルにするのではなく、「セントラルアパートのような定義で何かできませんか』ということを提案させていただきました。
■トレンドを生むためのクリエイターの役割
ー具体的にどのようにしてハラカドで実現しようと考えたのですか?ー
千原さん:ハラカドは商業ビルですが、この場所で文化を育むためには、クリエイターがそこいる環境を作ることが大切だと考えています。だから僕自身がここにオフィスを構えることを東急不動産に提案しました。
例えば有名なクリエイターが新しいファッションビルやコンセプトショップをプロデュースしたとして、オープニングパーティーにはいらっしゃったとしても、その後はほとんど来ないことが多い。そしたらみんなも来ない。東京ってそういう街だと思うんです。
千原さん:僕は、ハラカドというビルが長く存在し、ここからクリエイターや新しいトレンドが生まれ続けなければ、文化は育たないと思っています。
■ハラカドが担うクリエイティブな空間作り
ー千原さんがハラカドに常にいることについての難しさはありましたか?ー
千原さん:もちろんありました。ハラカドの運営には、ビルの存続や東急不動産の社員のやる気、未来への投資を考えるという重要なミッションがあります。デザイン事務所を商業ビルのテナントとして認めてもらうことはもちろんのこと、原宿文化やクリエイターが集う場所を作るために、何度も東急不動産と話し合いを重ねました。
千原さん:僕は、ビルの上に立つ人ほど下に事務所を構えるべきだと思ってます。高いビルの上にいて自動改札のような場所を通っていくオフィスで打ち合わせしても、人と人の関わりや、クリエイターとの関わり、そして文化のことを理解することは難しい。
だからこそ、誰でも入れるオープンスペースでの会話が重要だと思います。セントラルアパートのように、クリエイターが自由に交流できる場所でなければ、町の文化は育めません。東急不動産がハラカドをそういう場所にするべきだとお伝えしました。
ーハラカドでの事務所運用はどうですか?ー
千原さん:そうですね、実際にオープンして、一ヶ月経過したとき「セントラルアパートは始まっている」と自分のnoteに記しました。この時点で、ここが新しいクリエイティブの拠点となりうる入り口に立ったと感じる出来事が起こり始めていました。
千原さん:これまでのオフィスは、アポイントメントを取って打ち合わせをするのが通常でした。ハラカドでは自然に人が集まって、そこから会話が生まれ新しい仕事になっていく。毎日クリエイターやビジネスパーソンと会っていて、その出会いが新しいプロジェクトのきっかけになっています。
ー課題はありますか?ー
千原さん:時間が足りなくなることですね。打ち合わせ中に人が訪れると、一旦打ち合わせを中断せざる負えなくなることもあります。また、出張や他の仕事もあるので集中する時間が取りにくい状況です。
今は効率的に時間を使うために、いままでより時間の使い方を意識して、プロジェクトの進め方や新しい働き方に付いて工夫しています。
■原宿の未来と地域連携
ー地域とのつながりはどうですか?ー
千原さん:僕は京都に自分の原風景がありますが、この地域の子どもたちに原宿という都会の原風景を作ってあげることもミッションだと思っています。
ハラカドには銭湯やオフィス、レストランもあり、子どもたちが学校帰りに立ち寄り、お風呂にはいって宿題をしたり食事をしたりすることで、この場所が地域住民の方たちの原風景になっていくし、そういったことも担っていくビルになるべきだと考えてます。
千原さん:また、毎月一回、地域の小学校を巻き込んだ『ワラカドデー』が開催されています。
このイベントでは各テナントがノベルティを提供したり、地域全体で楽しめる企画を考えています。地元の小学校や地域のママさん会と一緒に企画を考えるのも地域の強みだなと思いますし、こうした取り組みは原宿文化を作るために重要です。
ーハラカドは新しい公共のあり方のようにも感じますが、その点についてはどうお考えですか?ー
千原さん:ハラカドは商業でも必要であり、でも町の文化にも大きく関わっていくビルだっていう両軸の考え方があるから、 そういうことが生まれるのかなと思います。
■企業カルチャーの新しい形とハラカドが示すCXの可能性
ー千原さんが行っている地域や地元のカルチャーを育てる取り組みは、企業カルチャーにどのような影響を与えると思いますか?ー
千原さん:企業は、大きくなればなるほどシステム化が進みますが、その仕組みがコロナ以降崩れてきてる気がします。インターネット社会やDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が来て、会社に集まることの意味が問われています。
また、AIの台頭で、役職として必要だったことが不要になることがどんどん起きている思います。『会社って人生において何のためにあるんだろう?』ということが、今の課題だと思っています。
千原さん:組織に所属してお金をもらうだけではなく、会社に来るのが楽しい、人と会うのが楽しいと思える環境を作らないと、実は効率が悪くなっているということに気づけないんですよね。
仕事って言われたこと以外の周りにあることが本当の仕事だと思うんです。そこを育めない状況が会社として本当にいいのかどうか。『みんなが集まって、心をひとつにしてプロジェクトを動かしていきましょう』という状況を作りたいけど作れない。
今の仕組みでいうと、会社をもっと面白くするために予算を投じるべきなんじゃないかというのがCX(カルチャートランスフォーメーション)ですね。
■企業カルチャーとエンゲージメント
ー企業カルチャーを面白くすることはエンゲージメントの向上につながりますか?ー
千原さん:そうですね。企業にCXの話をすると、「それって利益につながるの?」って話になりがちですが、ハラカドがまさにそれを実行しています。坪単価いくらの利益を出すという話ではなく、文化を育む場所としての役割を担っていると思います。
実際、東急不動産の方々はハラカドで飲んだりして毎日楽しんでいますよ。特に3階の飲み屋は遅くまでやっているので、みんな他で食べて飲んでから最後にあそこに来るんです。こういう場所が企業のカルチャーを活性化させると思います。
■オープンスペースと企業カルチャーの進化
ーオープンスペースは企業カルチャーをどのように進化させると思いますか?ー
千原さん:今までの話の総合だと思いますが、間口を広げて、人が出入りしやすくすることですね。今はシークレットにやる時代じゃなくて、オープンに誰でも出入りできる場所を作ることが大切です。
オープンな場にすると全てがひとつになれる。昔の銭湯は、地域コミュニティの中心で、住民同士が顔を合わせ、日常的な会話を通じて助け合っていました。高度成長期以降、家にお風呂ができ、銭湯が減少するとともに、地域のコミュニティも失われていきました。
ハラカドには町内会があるんですよ。テナント同士が相談し合い、町や文化を育むように、ビル自体が協力して課題を解決する仕組みを目指しています。
■デザインとコミュニケーションの融合
ーデザイナーとしての枠を超えて、こういったことをやっていこうと思うのはなぜですか?ー
千原さん:デザインって絵を作ることだけじゃないんですよね。今まではBtoBでビジュアル作ってくださいとか、ロゴとかCMとか絵作りのデザインをやってきたけど、コロナが来て、広告を作らなくてもいけるねってなった。SNSの台頭もあって、広告の意味も変わってきている。
今は、企業の再生や町づくりを含めた幅広いデザイン活動を行い、コミュニケーションをデザインすることが求められていると思います。
■オフィスの新しいあり方
ー千原さんが、今後企業の空間作っていく可能性はありますか?ー
千原さん:あると思いますよ。特に、企業が人を集めたいというニーズは強くなっていますよね。全員出てこいと言っても反発される時代になりましたから。自主的に行きたいと思わせるような場所作りが求められているんです。
企業としてのセキュリティを守りつつ、オープンな空間で人を呼び込む方法はあります。
千原さん:オフィスはどんどんオフィスじゃない方向に進むべきだと思います。会社に来て大事なのは、机に向かって働くことじゃなくて、みんなでご飯を食べたり、休憩したり、会議したりする時間を持ち、仕事に向かうために必要なものを作るのがオフィスだと思います。
今まではオフィス機能だけで良かったけど、オフィス自体が生活のスタイルになるような機能を入れていかないと、人は来ない。そういう状況だと思いますね。
■まとめ
今回のインタビューを通して、千原さんの考える企業カルチャーの進化と、ハラカドでの実践について伺いました。
オープンスペースの活用や、地域とのつながりを重視した新しいオフィスのあり方は、単なる仕事の場を超えて、文化やコミュニティを育む場としての可能性を秘めています。企業は、効率性だけでなく、エンゲージメントや人間関係の構築を通じて、より豊かなカルチャーを築いていく必要があります。
これからの企業の未来に向けた挑戦に、ハラカドが示すモデルがどのように影響を与えるのか、非常に楽しみです。
ぜひ、ハラカドに足を運んでみてください。ハラカドの取り組みや空間がどのように企業カルチャーを変革し、新しい文化を育んでいるかを体感できるでしょう。
千原 徹也(ちはら・てつや)
クリエイティブディレクター・映画監督/株式会社れもんらいふ 代表
1975年京都府生まれ。
2011年に、デザイン会社れもんらいふを設立。広告(H&Mや、日清カップヌードル×ラフォーレ原宿他)ブランディング(ウンナナクール他)、CDジャケット(桑田佳祐 「がらくた」や、吉澤嘉代子他)ドラマ制作、MV、CM制作など、さまざまなジャンルのデザインを手掛ける。東京応援ロゴ「KISS,TOKYO」発起人、富士吉田市の地方創生など活動は多岐に渡る。そして長年の夢、映画監督としての作品「アイスクリームフィーバー」が2023年7月に公開。2024年には、東急プラザ原宿「ハラカド」に、事務所を移転させ、オープンな場所でのコミュニティ、ショップ、スクールなどが融合した新しい形のデザイン会社に取り組んでいる。(出典:https://lemonlife.jp/)