変わり続ける空間が、共創を育む──地球中心デザイン研究所のオフィスデザイン

変わり続ける空間が、共創を育む──地球中心デザイン研究所のオフィスデザイン

思想だけじゃ伝わらないから、空間をつくる

地球中心デザイン研究所(以下、ECD)の新しいオフィスには、よくある“働く場”の要素がほとんど見当たりません。整列するデスク、明快な動線、効率のための仕切り。代わりにそこにあるのは、床に映る地球の地図の影、時間によって色を変える空間、そして使うごとに表情を変えていく家具たち。

このオフィスの最大の特徴のひとつは、“再利用率ほぼ100%”で構成されていること。建材や什器の多くを以前のオフィスや既存資源から再利用し、新たな建材の調達や廃棄物の発生を極限まで抑えて設計されています。この空間は、思想の“結果”ではなく、“問いの連続”から立ち上がった場なのです。

ECDは、オフィスを拠点に、地球規模での持続可能性や社会との関係性を問い直すさまざまなプロジェクトを発信しており、今回のオフィスづくりにも、その思想が色濃く反映されています。

そんなユニークなオフィス空間がどのようにして形づくられていったのか── 空間設計を手がけた建築家・保坂 猛さん、そしてその思想の起点となったECD代表・佐藤 カズーさんに、オフィス構築の背景と過程について伺いました。

佐藤 カズーさん(左)と 保坂 猛さん(右)
佐藤 カズーさん(左)と 保坂 猛さん(右)


ECDという新しい思想を掲げる上で、なぜあえて新しいオフィスを構える必要があると考えたのでしょうか?

佐藤カズ一(以下、佐藤さん) 地球中心デザインという新しいコンセプトと、それに伴う仕事の進め方や作り方、デザインのアプローチも、これまでの広告やデザイン業界とは少し違う方向に進むものになると思っていました。だから、従来のオフィス空間のままでは、その思想を体現するのが難しいと感じていました。

やっぱり、新しい思想や考え方を実践していくには、それを支える新しい場が必要だと思います。オフィスという空間が、働く人の思考や行動に影響を与える以上、僕の中では“オフィスを構える”という選択肢しかなかったですね。

「オフィスが働く人の思考を支えて働くビジネスの方向性を決めていく」と佐藤さん。
「オフィスが働く人の思考を支えて働くビジネスの方向性を決めていく」と佐藤さん。

 

建築家を「直感」で選ぶということ

佐藤さん 建築家はコンペで選ぶのが一般的ですが、今回は直感で決めました。色々な方の作品を見ていく中で、保坂さんの建築からは“人や自然への愛”のようなものが強く伝わってきたんです。「この人なら、僕たちの想いをちゃんと受け取って空間にしてくれる」と直感的に信じられたんです。

保坂さん 最初にお声がけくださったとき、プレゼンをしていただきました。とにかく地球中心という新たな思想のもとで、広告のあり方も変えていく会社をつくると。思想に合ったオフィス空間とはどうあるべきか、可能性をとことん考え抜かれていて、それを直接お話しいただきました。聞けば聞くほど「これはどうやってかたちにすればいいんだ……」と圧倒されるほど自由で、責任の重さにも少し不安を感じたんです。

でも同時に、佐藤さんから「保坂さんの代表作になるようなものを作ってください」という一言をいただいたことが本当に嬉しくて。オフィスデザインやインテリアの経験の有無にかかわらず、そうやって託してもらえること自体がものすごく光栄でした。

「自分の代表作にするという気持ちで挑んだ」と話す。
「自分の代表作にするという気持ちで挑んだ」と話す。

 

思想から空間を起こすには

佐藤さん このオフィスは、社外の人たちも積極的に迎え入れて、一緒にものづくりをしていく「共創の場」にしていきたいと思っています。そうした目的を最初から共有していたので、いろんな立場の人たちが出入りしやすい、開かれた空間にすることを意識しました。

たとえばワークショップやプレゼン、チームの共同作業、パーティーの場、夜にはバーとしても機能する。集まった人や活動の内容に応じて、柔軟に姿を変えられるようなオフィスを目指しました。

保坂さん 最初の2ヶ月はとにかく考え抜きました。最初に浮かんだのは、“畳の間”という案。三十三間堂のように畳を並べて、寝転がったり座ったり自由に過ごせる空間を構想していました。

佐藤さん あれ、いいなと思ったんですよね。この案で行くなら草を敷いてヤギを飼いたいと思って。でも畳を食べてしまうリスクもあって(笑)。

保坂さん 紙を食べるヤギって、循環の象徴にもなると思ったんです。本気で検討して、管理会社に聞いたら「グレーですね」と言われて断念しましたが……。

佐藤さん でも、ECDの思想は体現してますよね(笑)。

構想初期を振り返り、笑顔を見せる二人。
構想初期を振り返り、笑顔を見せる二人。

 

「地球の間」ができるまで

このオフィスには“地球の間”という大空間がありますよね。これはどのようにして生まれたのでしょうか?

保坂さん オフィスってシンプルに考えると、テーブルと照明と椅子で成り立つ。それらの最低限の要素に地図を組み合わせた時、人類の思考の痕跡を空間に浮かび上がらせられると思ったんです。

16世紀のメルカトル図法をはじめ、紀元150年ごろから現代に至るまでの地図を時系列で並べることで、地球に対する思考の連続性が浮かび上がってくる。そこにECDの皆さん、そしてこれからこの場に集う人たちの視点が重なることで、空間の中に時間の流れと知の蓄積が感じられる場所になる──それで、これは畳よりいいなと(笑)。

佐藤さん このアイデアを聞いたときは、「膝を打つ」気持ちでしたよ。「そうきたか!」って。まさか“昔の地球を考えてみる”という視点が出てくるとは思ってなかった。地球を思考するという強制力が働くし、ギャラリー的な雰囲気もある。大好きなアプローチでしたね。

プロジェクションなどはあえて使わず、LEDの照明のみで床に映し出す。
プロジェクションなどはあえて使わず、LEDの照明のみで床に映し出す。
デスクにはさまざまな時代の地図が描かれている。
デスクにはさまざまな時代の地図が描かれている。
「シロクマホール」。
「シロクマホール」。


実際にこの空間で働いてみて、どうですか?

佐藤さん オフィスの居心地がよくて、朝は自然と早く来るようになりました。8時とか、日によってはもっと早く来て、静かな空間で過ごす時間がすごくいい。夜も遅くまで作業しているメンバーもいますけど、それも強制じゃなくて、あくまで自由。全体的に、生産性はむちゃくちゃ上がっている実感があります。

浮かび上がる地図が、昼は静かに、夜は語りかける。
浮かび上がる地図が、昼は静かに、夜は語りかける。

 

やはり、オフィスにとって“居心地の良さ”と“生産性”って、比例するものなんでしょうか?

佐藤さん だと思います。創造的でないオフィスで10時間かけてそこそこな案をひねり出すより、すごく居心地のいい空間の中で創造性を膨らませたほうが、30分でより良いアイデアにたどり着ける。だから、質も時間も変わってくると思うんですよね。

「地球のことを考えられる場所にしたかった」──競争でも管理でもない、自由な発想が生まれるオフィス。
「地球のことを考えられる場所にしたかった」──競争でも管理でもない、自由な発想が生まれるオフィス。

 

環境に配慮したオフィス設計

今回のプロジェクトでは、空間づくりにおいて「環境への配慮」も重要なテーマのひとつだったと伺いました。

保坂さん 「地球中心」という思想を前提にご相談を受けた際、ECDさんからは、解体時の産業廃棄物をなるべく焼却や埋立にせず、再利用やリサイクルする方向で進めたいという要望をいただきました。そこで、設計の段階から「再利用率100%」を目指す方針でプロジェクトを進めていきました。

まず、既存の建具や家具、家電などを図面上で色分けして、どこでどう再利用できるかを整理しました。再利用が難しいものは、再流通業者に引き取ってもらい、極力廃棄せず循環の中に残す仕組みに。石膏ボードや木材といった解体材についても、リサイクル対応の業者に引き渡す際にマニフェストを取って進めました。

ECDのエントランス。廃棄予定だった使用済みの塗料を使用しているという。
ECDのエントランス。廃棄予定だった使用済みの塗料を使用しているという。

 

オフィスも含めて、建築業界は日本のCO₂排出において、上位に入る産業です。これだけ新しい建物が建ち続けている中で、大手建設企業も、つくり続けながらどう削減していくか、古いものをどう活用していくか──今まさに模索と実験の最中だと思います。

佐藤さん そうですね。世界的にもCO₂といった環境負荷の視点や資源循環性で建築が語られる流れは強まっていて、すごく難しそうに感じられる方もいるかもしれませんが、一方で、保坂さんのような想像力あるデザイナーの方々が、その制約をちょっと“楽しむ”というか、新しいものづくりの可能性として捉えてくださるケースもあると感じています。いまは本当に、トランジッションの過渡期なんだと思います。ここから少しずつでも、良い方向に向かっていけたらという思いがあります。

約81トンのCO₂排出量を可視化。再利用とリサイクルで削減へ。
約81トンのCO₂排出量を可視化。再利用とリサイクルで削減へ。

 

制約から生まれる、新しい可能性

保坂さん 「再利用率100%というのは一見制約に見えるかもしれませんが、むしろその制約の中で新しい価値をどう生み出すかが面白いと思ったんです。何でも自由にできる状況より、限られた中で「何ができるか」と考えることで、今回のような発明的な発想が生まれた。そこには汎用性もあると感じています。

ただ、こうした挑戦は、写真を見ただけではなかなか伝わらない部分でもあります。再利用率100%という言葉の裏に、どんな背景があったのか。それは地道でも、自分たちからきちんと発信していく必要があるなと思っています。

そして「再利用」とは、ただ素材を循環させることにとどまらないと感じています。今回使った古い地図のように、過去の思考や時代の痕跡を今の空間に蘇らせる──そうした“意味の再利用”にもつながっていく。それが空間づくりの醍醐味でもあり、再利用の面白さだと改めて実感しました。

建築廃材で作られたホッキョクグマやペンギン
建築廃材で作られたホッキョクグマやペンギン

 

所有しない、だからこそ叶った理想のオフィス家具選び

今回、fittingboxのサブスクリプションサービスをご利用いただきましたが、実際に使ってみていかがでしたか?

佐藤さん このクオリティの家具を“サブスクで使える”と聞いたときは、本当に驚きました。憧れの椅子を、購入せずに使えるなんて考えたこともなかった。時代がいい方向に向かっているぞって感じました。ちょっとした破損などは、補修すればまた使えるし、交換もできるし、廃棄しないで新しい命のもと他の誰かに渡る感じがすごくいいなと思いました。

もともと、リユース素材やアップサイクル的な家具も検討されていたんですよね。

佐藤さん はい。当初は廃材の活用や、既存素材のリユースも含めていろいろ考えていました。ガラスの再利用とか、ゴミの資源化とか、ゴミのアート化とか……アイデアはとにかく出しました(笑)。

保坂さん 実は、僕もはじめは「家具は自分で作るのかな?」と考えたこともありました。ただ、椅子ってとても繊細なもので、ちゃんとした快適性を追求しようとすると、とんでもないコストと技術が必要になる。既製品を選ぶにしても、リサイクル素材を使っている椅子といっても、どういうプロセスでリサイクルされているのかが見えにくい。調べても、情報に行き着かないことが多いんですよ。

だから信頼できるルートで、ちゃんとした背景を持った家具がサブスクで利用できるというのは、非常に安心感がありました。しかも、使いながら「やっぱり違うな」と思ったら交換もできるのも非常にいいなと。

ブルーカウンターに並ぶのは、サブスクを利用した色とりどりの椅子
ブルーカウンターに並ぶのは、サブスクを利用した色とりどりの椅子

 

共創と余白が育つ、これからの働く空間とは

最後にお二人にお聞きしたいのですが、これからの働く場所に求められるものは何だと思いますか?

佐藤さん 働く場においては、これからますます「競争」ではなく「共創」が大切になっていくと思っています。その時代やそこに集う人たちの価値観によって、働く場のあり方は変化していくものだと思いますが、いま特に大切なのは、「共有する」という感覚ではないでしょうか。

資源や空間、景色や空気──あらゆるものを分かち合うという意識。それが結果的に、人や地球に優しい選択にもつながっていくと思うんです。

そう考えると、オフィスにおける「所有する」という前提は、少しずつ手放していくべきなのかもしれません。専有するのではなく、共有し、共創していく。その柔軟さが、これからのオフィスには求められていくように思いますし、こういう場所から考えもしなかったようなコラボレーションが生まれるんじゃないかと感じます。

保坂さん 私自身も、働く空間はもっと柔軟であっていいと思っています。今回のプロジェクトでは、ECDさんの思いに向き合うなかで、一般的な“オフィスらしさ”からあえて離れることを選びました。

「ECDさんから受け取った”ハートに残ったもの”だけを頼りに設計に向き合った」と保坂さん
「ECDさんから受け取った”ハートに残ったもの”だけを頼りに設計に向き合った」と保坂さん

 

何が必要で何が不要かは一概には言えないけれど、少なくとも「その場所に集う人たちが自由に考え、自由に再構築できる場」であること。それが、これからの働く場所に必要な要素なのではないかと思います。

思考の軌跡が刻まれた“地図”を囲んで、空間のこれからを語る。
思考の軌跡が刻まれた“地図”を囲んで、空間のこれからを語る。

 

思想をただ語るのではなく、空間として実装する。そんな挑戦が、このオフィスに心地よさと柔軟さをもたらしていました。

「地球の間」に象徴されるように、環境や人との共創に対して誠実に向き合い、家具ひとつをとっても、所有しないという選択肢が自然に取り入れられている。

“再利用”や“サブスク”といった持続可能なあり方が、当たり前のように息づいていました。

完璧ではなく、変化していく前提の空間。
完璧ではなく、変化していく前提の空間。

 
その余白が、未来の働き方をやさしく受け止めてくれるように感じました。

https://ecdtokyo.jp/
https://www.hosakatakeshi.com/

 

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