家具が自由なら、家はもっと素直につくれる ─ パナソニック ホームズ・建売モデルハウスにおけるサブスク活用
完成した家を販売する建売住宅では、買う人が決まる前に空間をつくり切らなければなりません。周辺の相場や世帯構成を調べ、想定した暮らしに向けて仕上げていく。それでも、実際に内見に来たお客様がその空間に心を動かされるかどうかは、扉を開けた瞬間に決まってしまいます。
だからこそ、建売住宅の販売では、販売中の数棟をモデルハウスとして公開し、家具を設置することが当たり前になりつつあります。
しかし家具を購入すれば、販売期間後の保管コストと、次の物件で展示する場合に必ずしも空間にフィットするわけではないという課題がついてまわります。
東京都練馬区の分譲住宅「パークナードテラス石神井台」を手がけた住宅総合メーカー・パナソニック ホームズ株式会社(以下同社)は、この物件のモデルハウスに家具のサブスクリプションサービス「fittingbox(フィッティングボックス)」を導入しました。完成した空間の魅力を、どうお客様に感じてもらうか。その問いに向き合った先に見えてきたのは、販売の話にとどまらない、モデルハウス設計そのものの発想の変化でした。
今回は販売を担当した石川氏(写真左)と、インテリアを担当した鍋島氏(写真右)にお話を伺いました。

街を知り尽くしたお客様に、新たな魅力を届けるために
練馬区石神井台は、都心へのアクセスの利便性と武蔵野の緑豊かな環境を併せ持つエリアです。派手さはないものの住みやすさが評価され、ここ数年で土地の価値は大きく高まりました。そんな中、どこまで費用をかけるべきか、企画の段階から慎重に検討されました。
同社は15年前、同じ場所で分譲開発を手がけており、今回の6邸は、その街並みに隣接する形で計画されました。既存棟の外壁が白いタイルを基調としているのに対し、新街区では黒いタイルを採用。サッシの色も黒で揃え、白と黒のコントラストで街並みに新しい表情を加えています。
さらに今回は、分譲住宅としては初めて外部のランドスケープデザイナーを監修者として迎えました。外部の視点を入れるという初めての試みです。背の高い植栽を採りいれ、植え方にも工夫が施されました。新しい取り組みということもあり、社内でも注目が集まる物件となりました。
間取りは、ゆとりのある3LDKが中心。かつては「ファミリー向けなら、ご夫婦+お子様2人」を想定して4LKDで企画を進めていたところ、共働き世帯やDINKsも想定し、部屋数よりも一室のゆとりを優先しました。書斎や多目的スペースとしても使える構成です。6邸はそれぞれカラーリングを変えているのも、同社の分譲の特徴だといいます。
鍋島氏「いろいろな好みのお客様がいらっしゃるので、6棟それぞれ違ったカラーリングやテイストになるように作っています」
来場者の傾向も変わってきているといいます。以前は、そのエリアに馴染みのないお客様も多く、まずは街の魅力や特徴を説明するところからご案内がスタートするケースが多くありました。
石川氏「いまは地元の方や、もともとこのあたりに縁のある方がほとんどです。周辺の他社物件もご覧になっていて、この街のことを知り尽くしているお客様が多い。共働きのご家庭が増えて、親御さんの近くや住み慣れた場所で暮らしたいという考えに寄ってきているのかなと思います」
数々の物件を見てきたお客様に、6邸それぞれの魅力を伝えなければならない。その手段として、家具は欠かせない存在でした。
家具と一緒に空間を見せたい。でも、運営の負担は減らしたい
石川氏「モデルハウスに家具があるかないかで、お客様の反応は全く違います。数年前までは分譲地の半分くらいは家具を入れずに販売していました。しかし、お客様の反響がまるで違うので、最近はなるべく全棟に家具を入れるようにしています」
家具を設えること自体は、すでに当たり前になりつつあります。問題は、いかにコストを削減しながら家具を調達し、維持・管理していくかでした。
住宅総合メーカーにとって、モデルハウスのために購入した家具は、住まいが売れた後も残り続けるものです。
石川氏「売れた後、家具は倉庫を借りて置いておくこともありますし、基本的には次に販売する物件で再活用をしています」
しかし、そこには問題がありました。
鍋島氏「別のモデルハウスで使用していた家具は、色味や間取りを考慮して配置した場合でも、内装との調和が取れず、違和感が生じることがあります」
そこに、本社経由でfittingboxの紹介が入りました。内装工事が始まる2〜3ヶ月前。当初は家具を新規購入し、小物まで揃える想定だったところからの、急な方針転換でした。
鍋島氏「家具のサブスクは、慣れないことなのでスムーズに進むか不安もありました。ただ、外構でも初めての取り組みをしていた物件でしたし、新しいことへの挑戦に寛容な雰囲気もあり、採用させてもらいました」
必要な期間だけ物件に合う家具をサブスクで借り、販売が終われば返却するスタイル。住宅メーカーとしては家具の在庫が発生しないため、次の物件ではゼロから最適な組み合わせを考えられるメリットもあります。保管と転用という長年の悩みが、そもそも発生しない形でした。
サブスク家具が演出する空間の「質」
家具が入った空間への反応は、社内外を問わずとても良かったといいます。
石川氏「注目されて始まった物件なので、社内の人間も含めていろいろな人が見に来ました。感想ではほぼ全て良い評価をいただいています。家具があると、やはり印象が違います。
『さすがモデルハウスだよね』という声が出てくる」
石川氏「『めちゃくちゃこだわった空間ですね』という声は、お客様からも社内からも共通していただきます」
家具が生み出した、お客様との会話の価値
住宅販売の現場では、家具をどこまで提案するかは営業によってまちまちだといいますが、石川氏は、シンプルに家具選びの話が好きだと語ります。
石川氏「家具について話すと、お客様との打ち合わせが盛り上がって、仲良くなれる。今回のような名作家具が入っていると、こちらもちゃんと知識を持って『こんな家具を入れております』とお話したくなりますね。お客様も、家を見に来ているだけではないと思うのです。そういう会話を楽しんでいただけることの価値を、今回感じられた気がしています」
想定していなかった効果もありました。
石川氏「お客様から『この家具はついてこないのですか』『販売はしていないのですか』と言われることも実際にあります。ルール上お譲りはできないのですが、『でしたら別途ご提案できますよ』という次の話につながる。家具によって印象が変わるだけでなく、販売としての相乗効果も期待できると思いました」
サブスクが実現する引き算の内装
鍋島氏「これまでのモデルハウスでは、予算の制約上、質の高い家具を入れることができませんでした。魅力的な空間づくりのために、内装だけで空間演出を頑張る必要があることが多いです」
家具が入らないモデルハウスでは、空間だけで来場者の心を掴む必要があります。しかし家具が入れば、その内装の足し算はかえって過剰になってしまいます。
鍋島氏「質の高い家具がある空間をイメージしながら内装を検討できれば、空間全体の完成度は高くなると思います」
足していた分を、引くことができる。それは意匠の話にとどまりません。同社では建設現場の産業廃棄物削減に取り組んでおり、内装材も処分が少なくなるよう設計段階で意識することが定められています。サブスクの活用によって使う資材が減ることは、その方針にも重なってきます。
家具は設計の自由度を広げる存在
鍋島氏「今回はサブスク家具についてご紹介を受けたのが竣工の直前で短期間での検討となりましたが、設計段階で検討することが出来ればさらに良いプランができると可能性を感じています。」
すでに他の支社では、プランが固まる前の段階からfittingboxの活用を検討する動きが出ているといいます。
石川氏「住宅市況はどこも厳しいです。資材コストも上がって、購入のハードルは相当高くなっています。そのため、循環型の取り組みのような、プラスアルファの付加価値が必要だと思います。まだ取り組んでいない会社にとっても、いい選択肢だと思います。ぜひ一緒に頑張っていきたいですね」
完成した家を売ることの難しさ、という前提は変わりません。しかし家具の選び方が自由なら、空間側であまり無理をする必要がなくなる。今回の取材で見えてきたのは、家具が設計の自由度を広げる存在になり得るという、新たな可能性でした。
いい家具が入ることを前提に設計できれば、空間は過剰に飾り立てる必要がなくなる。そんな素直につくられた住まいにこそ、住む人の暮らしを豊かにする心地よさが宿るのではないでしょうか。
(取材・文:fittingbox編集部)
