「ここで働きたい」を生む空間の力 ─ オフィス一新を機に内定承諾率90%へ
新しいオフィス空間をつくる際、それが採用活動にどのような効果をもたらすのか。多くの成長企業が抱くこの問いに対し、明確な成果で応えたケースがあります。
新緑が眩しく、窓の外にビルと自然が溶け合う美しいロケーション。横浜・馬車道に新オフィスを構えた株式会社テラは、採用活動の見直しを進めるなかで、リニューアルした馬車道オフィスを候補者に会社のリアルな魅力を伝える場として活用しました。
もちろん、馬車道オフィスのリニューアルは採用活動だけが目的ではありません。事業戦略や社内外のコミュニケーション、ブランド発信、社員が集まりやすい拠点づくりなど、その狙いは多様です。しかし、そこに一貫した思想が、採用活動にも良い影響をもたらしたと言えるでしょう。結果としてダイレクトリクルーティング、対面での相互理解、入社前フォローなどの取り組みと相まって、採用費用を抑えながら内定承諾率約90%という成果につながっています。
今回のリニューアルは、インターオフィスが全体構想、設計から施工までトータルで手がけており、家具導入の方法の一つとして「サブスクリプション家具(fittingbox)」もご活用いただきました。
企業が「働く環境」に投資することは、未来の組織づくりにどう作用するのでしょうか。今回、私たちは馬車道オフィスを訪問し、事業責任者を務める新美 伊吹氏と、HRチームリーダーの嵯峨根 香恋氏に、空間づくりがもたらした劇的な変化の裏側をお伺いしました。
写真左から 新美氏 嵯峨根氏
エージェント依存からの脱却と、手探りの採用改革
株式会社テラは、事業拡大や自社が運営する携帯ショップの店舗数増加を見据え、新卒採用の強化を目指していました。しかし、一昨年までは「もっと採用したいけれど、なかなか人が採れない」状況に直面していたといいます。
当時の大きな課題は、採用費用の高騰でした。外部エージェントに依存した採用手法では、人数が増えるほど1人あたりのコストが重くのしかかります。こうした状況を受け、社長と新美氏が採用方針について話し合う中で、「エージェントは初めから使わず、自社主導で採用に取り組む」という方向性が決まりました。新美氏もその方針に納得し、採用責任者として実行に移していきました。
採用業務の経験がなかった新美氏にとっては手探りのスタートでしたが、就職サイトを活用し、自社に合いそうな学生へ直接メッセージを送るダイレクトリクルーティングへと舵を切りました。その上で最も重視したのは「会社のリアルな魅力を伝えること」です。
新美氏「採用手法はさまざまですが、一番大切にしていたのが弊社の魅力を知ってもらうことです。『どれだけチャレンジしたか』を大事にする社風や、社員同士が一緒に食事に行くような仲の良い空気感、若手にも大きな裁量が与えられる点など、ありのままを伝えることに集中しました」
しかし、こうした「会社の想い」は、募集サイトの文面や写真だけでは伝えきれません。エージェントを介していた頃に発生していたミスマッチを防ぐためにも、直接コンタクトを取り、一貫してリアルを伝える手法が必要だったのです。
オンライン面接の壁と、大きな転換点
自分たちで集客し、魅力を直接伝える。戦略は理にかなっていましたが、現実は甘くありませんでした。昨年4月に採用活動をスタートさせたものの、6月頃まで採用実績はゼロという結果が続いたのです。
当時は、面接の全プロセスをオンラインで完結させていました。内定を出しても、承諾が得られない日々。学生もまた厳しく企業を選ぶ時代において、「どうすれば入社を決意してもらえるのか」と頭を悩ませていた時、ひとつの大きな転換点が訪れました。
新美氏「オンラインで効率よく就活したいという学生の気持ちは分かった上で、最終面接では馬車道オフィスに来てもらい、会社の雰囲気や働く人の様子を直接感じてもらう設計に変えました。採用手法の見直しや候補者への継続的なフォローも重ねたことで、結果として内定承諾率が90%ほどまで高まりました」
承諾率が高まった背景について尋ねると、新美氏は、採用手法の見直しに加え、候補者が会社の空気を実感できる馬車道オフィスの存在も大きな後押しになったと語ります。
オフィスの開放感が会社の風土を語る
今回のリニューアル では、ブラインドを開け放ち、外の新緑と自然光をたっぷりと取り込む開放的な空間へと生まれ変わりました。漢字の風冠を思わせるカウンターや、コーポレートカラーのカーテンが会社のアイデンティティをさりげなく伝えています。
エントランスを入ると、視界の奥で社員が和やかに働く姿が自然と目に入ります。明るく風通しの良い空間で面接を行うことで、候補者は社員の雰囲気や職場の空気感を自然に感じ取ることができます。そこで生まれる会話や安心感が、テラで働くイメージを深めるきっかけになっています。
嵯峨根氏「学生の方がオフィスに出入りする時に『おしゃれですね』と言ってもらえると、その話の延長で、実はここはこうなっていて……と話が広がることもあります。自然な会話のきっかけになっていますね」
馬車道オフィスには、日常の業務から少し視点を切り替え、自然な会話や新しい発想が生まれやすい環境があります。都内拠点にもそれぞれの役割があり、場面に応じて使い分けることで、社員の働き方やコミュニケーションの幅を広げています。採用活動においても、この空間は言葉だけでは伝えきれない会社の価値観や風土を補完する役割を担っています。
オフィスの可変性が生み出した、等身大のコミュニケーション
このオフィスのもう一つの特徴は、壁で空間を固定せず、カーテンや可動式家具によって自由に仕切りを変えられる「可変性」にあります。大きなテーブルを除き、デスクやモニターなど多くの什器がキャスター付き。日々の業務や内定式、集合写真を撮る際にも、スタッフの手で自由にレイアウトを構成し直せます。
この環境は、候補者とのコミュニケーションにも自然な変化をもたらしています。面接前の何気ない会話や、採用担当者と横並びで言葉を交わす時間が、固い空気を和らげ、お互いを知るきっかけになります。空間の可変性は、採用だけではなく、日々の業務や社内外の打ち合わせにも活用できる柔軟さを生んでいます。
採用改革と空間活用が広げる、未来への展望
自社主導の集客、候補者との直接的なコミュニケーション、対面での相互理解、入社前フォローなどを積み重ねたことで、採用数の増加と採用経費の削減につながりました。外部エージェントに依存していた頃と比較して、採用コストを抑えられる体制づくりが進んでいます。
この取り組みを経て、同社はすでに次の一手へ動き出しています。2026年度の採用目標をさらに引き上げ、SNSやYouTubeチャンネルを開設。動画コンテンツを通じて、働く人や事業、挑戦の機会、オフィス空間の魅力など、テラのリアルな魅力を自分たちで発信していく予定です。
さらに、この一連の自社採用のノウハウを体系化し、他社の採用を支援するコンサルティング事業の構想も進んでいます。内定を出して終わりではなく、定期的にイベントへ招待し、入社まで継続的にフォローアップを行って辞退を防ぐ仕組みへと繋がっていくそうです。
人と空間を育て、未来の仲間を惹きつける
今回の取り組みから見えてきたのは、オフィスは単なる業務を行う箱ではなく、企業の文化や事業の方向性を伝える場にもなり得るということです。光を取り込む開放感や、自由に家具を動かせる可変性は、採用のためだけではなく、社員同士のコミュニケーションや社内外へのブランド発信にもつながっています。
「ここで働きたい」という気持ちは、採用担当者との対話、社員の人柄、挑戦できる環境への理解、入社までのフォロー、そしてそれらを自然に感じられる空間が重なって育まれていくものです。変化を受け入れ、働き方や事業の広がりに応じて柔軟に姿を変えられる余白を持つこと。そうしたしなやかな空間は、テラが大切にする「人が主役」の考え方を伝える一つの手段になっているのかもしれません。
【オフィス設計のエピソードはこちら】
今回リニューアルに設計パートナーとして参画したstudio OCULUSの伊藤武史氏が、「風を起こそう」という企業メッセージをどう空間で表現するか、その試みの背景や想いを語っています。是非あわせてご覧ください。
fittingboxとデザイナー【設計・伊藤 武史氏】
https://fittingbox.jp/news/2374/
新美 伊吹氏 プロフィール
株式会社テラ リアルマーケティング事業部部長
携帯ショップの現場スタッフとして入社後、店長・マネージャーを経験。現在は事業部長として、採用・組織づくりなどを幅広く担当している。
嵯峨根 香恋氏 プロフィール
株式会社テラ リアルマーケティング事業部 ヒューマンリソースチーム チームリーダー
新卒でテラに入社。携帯ショップの現場スタッフを経験後、現在は採用や育成を担当。
(取材・文:fittingbox編集部)
